コーチングの体験談を読み漁った夜に、私が最初にメモしたのは「向いていない人」の欄だった
日曜の夜23時、ベッドの上でスマホを縦にしたまま、私は英語コーチングの体験談を10本以上はしごしていた。どれも似た書き出しで、似た成功のカーブを描いていた。3か月で200点上がりました、専属の担当が毎日声をかけてくれました、そういう話だ。読めば読むほど気持ちが焦って、それでも申し込みボタンには指が届かない。月に7万円という数字が、営業事務の私の手取りの上で妙に生々しく光っていたからだ。
それで私は、逆から並べてみることにした。この記事を開いているあなたも、たぶん似たことを一度は考えている。合う合わないの前に、そもそもお金を払う価値が私にあるのか、という不安のほうだ。だから今日は、向いている人の華やかな条件を先に並べない。私が自分に問い直して、まず「これに当てはまる人はコーチングに手を出さないほうがいい」と思った項目から書く。
1日に机へ向かえる時間が20分未満なら、伴走者を雇っても回らない
コーチングの正体は、走る本人の代わりに走ってくれるサービスではない。走るのは自分だ。担当がやるのは、走る方向を直すことと、止まったときに背中を押すことだけ。だから前提として、走る時間そのものが1日に20分も取れないなら、どんなに優秀な担当がついても空回りする。
私はこれで一度やらかしている。転職して間もない5月、残業が続いて帰宅が22時半を回る日が週に4日あった。その状態で市販の学習アプリに課金したものの、開いたのは最初の3日だけ。担当がいたところで、私が机に向かえなければ声かけは通知の山になって既読すら付かなかっただろう。時間が絶対的に足りない時期は、まず生活を先に動かすほうが早い。学習法の問題ではないのだ。
「何がわからないか」を自分の言葉で説明できる人も、実は急がなくていい
もう一つ、意外に思われるかもしれない条件がある。自分のつまずきを自分で言語化できている人は、コーチングの効果が薄い。というより、独学でかなり進めてしまえる。
たとえば「リスニングのPart3で、選択肢を先読みする速度が本文の再生に追いつかない」とここまで具体的に症状を言えるなら、あとは先読みの練習メニューを検索すれば道は見つかる。伴走者が最も価値を出すのは、本人が「なんとなく伸びない」としか言えない霧の中にいるときだ。私はまさにその霧の住人だった。だからこそ、まず自分がどちらの側にいるのかを見極める作業を、申し込みより先にやるべきだった。
私が霧の中にいると気づいたのは、515点の内訳を初めて分解した木曜の夜だった
スコアが伸びないと嘆いていた時期、私はスコアの合計しか見ていなかった。515点、動かない、また下がった、その繰り返し。ところがある木曜の夜22時、ふと公式の成績票を引っ張り出して、リスニングとリーディングの内訳ごとの正答率という項目を初めてまじまじと眺めた。
正答率のバーが示していた、私の弱点は1か所に固まっていた
成績票の裏には、アビメと呼ばれる項目別の正答率が印刷されている。私のバーは、「文書の中の具体的な情報を探す」という項目だけが極端に短かった。ほかは6割前後で並んでいるのに、そこだけ3割を切っている。つまり私が毎回時間切れになっていたのは、長文の細かい情報検索でひたすら時間を溶かしていたからだった。
これに気づいた瞬間、私は自分の「なんとなく伸びない」という霧が、実は輪郭を持った1つの症状だったと知った。全体を底上げしようとして単語帳を2周した半年は、弱い1か所を素通りして強い部分をさらに磨いていただけだ。畑の水やりで言えば、すでに育っている畝にばかり水をやり、枯れかけた畝を見ていなかった。
自分で分解できても、次の一手までは見えなかった
ところが症状の名前がわかっても、私はそこで止まった。情報検索が遅い、それはわかった。では明日から何を、何分、どう練習すれば速くなるのか。ここが独学の限界だった。検索すると「スキャニングを鍛えよう」とは出てくる。けれど、私の今の速度がどのくらいで、どこまで上げれば目標点に届くのかを測る手立てが手元にない。
この「分解はできたが処方が書けない」という宙ぶらりんこそ、伴走者を雇う価値が最も高くなる地点だった。向いていない人の条件を裏返すと、私はまさに向いている人の側に立っていたのだ。症状はわかる、でも治し方の順番が組めない。ここにいる人は、独学で時間を溶かし続けるより外の目を借りたほうが結果が早い。
コーチングに向く3つの条件を、私は自分の状態に当ててみた
向いていない人を先に描いたので、ここからは絞り込んだ条件を私自身に当てて検証していく。抽象論で終わらせたくないので、それぞれ私の実際の数字と場面をつける。
条件1、独学で3か月以上まわしても数字が15点の幅で止まっている
最初の条件は、独学の努力量が一定を超えているのに結果が出ていないこと。私の場合は延べ200時間、期間にして1年3か月かけて、515点、505点、520点という15点の幅の中を行き来していた。これはもう努力の総量が足りないという話では説明がつかない。やり方の中に、伸びを止めている癖が埋まっている。
逆に、まだ独学を1か月しか試していない人はこの条件に当てはまらない。その段階なら、まず市販の教材で基礎の型を回すほうが費用対効果が高い。私が7万円の入り口で足を止めたのは半分正解で、時間が足りない時期だったからだ。でも200時間を積んで壁にぶつかった今の私は、明確にこの条件を満たしていた。
条件2、自分の弱点はわかるが、直す手順が組めない
2つ目は前の章で書いたとおり。私は情報検索の遅さという症状までは自力でたどり着いた。けれどそこから先、どんな課題を日々のどこに置いて、どの速度を目標に据えるかという処方箋が書けなかった。ここを人に組んでもらえると、独学の一番の落とし穴である「自己流の練習を延々と繰り返す」から抜けられる。
私が3周した公式問題集を思い出す。3周目も1周目と同じ場所で同じように詰まっていた。同じ道を同じ速度で3回歩いただけだ。処方箋がないまま量を積むと、間違った動作がただ固まっていく。この固定を外すには、外から見ている人の指摘がいる。
条件3、月数万円を3か月投じる覚悟が、生活の中で現実的に立つ
3つ目は身も蓋もないが、お金の話だ。コーチングは安くない。月7万円のところもあれば、リーズナブルなものでも月2万円台はする。ここで大事なのは、見栄で払える金額を答えないこと。私は昇給前の手取りで、家賃と奨学金の返済を引いたあとに自由に動かせるお金が月に3万円台だった。そこから毎月大きく削るのは、続かない。
だから私が現実的に選んだのは、まず低価格で質を保っているサービスを試して、自分がその負荷に耐えられるかを確かめる道だった。第二言語習得論という学習理論をベースにしたトレーニングを提供するスパトレは、7日間の無料体験があって、料金も月額の負担がコーチング専業のところよりずっと軽い。私はここで「毎日課題をこなす生活が回るのか」を先に検証した。
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無料の7日間で、私は自分が毎日25分なら確保できると知った。この事前確認があるかないかで、有料に踏み込んだあとの続き方がまるで違う。いきなり月7万円のコーチングに飛び込んで3週間で挫折していたら、私はまた「英語は向いていない」という誤った結論を抱えていたはずだ。
3つの条件をすべて満たしても、私が最後まで迷った1つの落とし穴
条件を並べると、いかにも私はコーチングに向いていると結論づけたくなる。でも実際に体験を進めていくうちに、私はもう一つの落とし穴に気づいた。伴走者がいると、自分で考えるのをやめてしまう瞬間があるのだ。
指示待ちになった2週目、私は自分の頭を止めていた
トレーニングを始めて2週目、私はいつの間にか「今日は何をやればいいですか」と待つ姿勢になっていた。課題が降ってくるのを待ち、こなし、次を待つ。楽だった。楽だったからこそ危ない。これはスクールに通っていた頃の失敗と同じ匂いがした。あのとき私は決まった時間に教室へ行って、出された問題を解いて、満足して帰っていた。行為が目的にすり替わっていた。
伴走者は方向を直す人であって、私の代わりに考える人ではない。この線引きを見失うと、コーチングは高いだけの塾になる。私は3日ほど、あえて課題を自分で選んで担当に「これでいいか」と逆に問う形に切り替えた。すると、自分がどこで詰まっているかを言葉にする力が戻ってきた。
向いている人の最後の条件は、伴走者を使い倒す気があるかどうか
ここまでの3条件に加えて、隠れた4つ目があると私は思う。用意されたメニューをただ消化するのでなく、担当を道具として使い倒す姿勢だ。質問を投げる、自分の仮説をぶつける、なぜこの課題なのかを聞く。この能動性がある人ほど、同じ料金から引き出せるものが増える。
逆に、指示に従っていれば伸ばしてもらえると期待している人は、金額の割に得るものが少ない。これは向き不向きというより、関わり方の問題だ。私は2週目のつまずきで、ここに早めに気づけたのが幸運だった。
私が発音の矯正を独立して入れたのは、コーチングの外側に穴があったから
トレーニングを続けるうちに、もう一つ見えてきたことがある。リスニングの伸びが、ある地点で頭打ちになったのだ。情報検索の練習でリーディングは上向いたのに、リスニングだけがまた石になった。
自分が出せない音は、聞き取れないという当たり前
原因を探して私が行き着いたのは、自分の発音だった。英語の音を自分の口で正しく出せていないと、その音が耳に飛び込んできても像を結ばない。私は long と wrong の l と r を、頭では違うと知りながら口では同じように鳴らしていた。だから音声の中で両者が並ぶと、どちらが来たのか判別できず一瞬固まる。その固まりが積もって、リスニングの速度に置いていかれていた。
これはコーチングやトレーニングの課題の中では、なかなか個別に潰しきれない部分だった。文法や読解の処方は組んでもらえても、私の口が出す音そのものを1つずつ直すには、専用の仕組みが要る。そこで私は発音矯正に特化したspeekを別枠で入れた。自分の発音がどの音でずれているかを可視化して直していけるので、耳と口の両方が同時に動き出す感覚があった。
1日10分の音の練習が、リスニングの数字を戻した
やったことは地味だ。夜に10分、自分の発音を録って、ずれている音を確認して、直して、また録る。これを3週間続けたころ、リスニングの模試で、以前なら聞き逃していた短い前置詞や冠詞が拾えるようになっていた。自分の口が知っている音は、雑音の中からでも立ち上がってくる。この体験は、聞き流し系の教材を30日続けても得られなかったものだった。
コーチングやトレーニングで学習の全体を組み、その内側で潰しきれない発音を専用ツールで並行して直す。この2段構えが、私にとっては合っていた。1つのサービスですべてを賄おうとすると、必ずどこかに穴が残る。
27歳の今この診断をするか、30歳でまた同じ夜を過ごすか
最初に戻る。私は日曜の夜、体験談を10本読んでも申し込めなかった。あのときの私に足りなかったのは、勇気でも情報でもなく、自分がどちら側の人間かを見極める1枚のチェックリストだった。
向いていない人の条件を、もう一度自分に当てる
1日20分すら机に向かえない生活なら、まず生活を動かす。自分のつまずきを具体的な症状として言葉にできるなら、独学で十分進める。この2つに当てはまるなら、今はコーチングに数万円を投じる時期ではない。
そのうえで、独学を3か月以上まわしても数字が止まっていて、弱点はわかるが直す順番が組めず、月数万円を3か月投じる現実的な余裕があり、担当を道具として使い倒す気がある。この4つがそろった人だけが、私と同じ入り口に立っている。私は515点で止まった1年3か月を経て、ようやくその入り口に立てた。
無料の期間は、失敗を安く済ませるための保険だ
私が一番よかったと思うのは、いきなり高額な契約に飛びつかなかったことだ。スパトレの7日間で自分の生活が回るかを測り、speekの無料トライアルで発音の練習が続くかを試した。この2つの無料期間で、私は身銭を切る前に「私に合うか」を先に確かめられた。数万円を溶かしてから気づくのと、無料の1週間で気づくのとでは、失う時間の重さが違う。
30歳まであと3年ない。この3年を、遅い癖のまま量を積む3年にするのか、癖を直してから積む3年にするのか。着く場所はまるで違うと、私は515点の成績票を3枚並べたあの木曜の夜に知った。まず今夜、自分がどちら側の人間なのかを、上のチェックリストで確かめてほしい。申し込むのは、そのあとでいい。


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