留学エージェントのおすすめを18社比較し続ける限り、あなたは一生出発しない

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スマホのブックマークフォルダを開くと、留学エージェントの比較記事が23本並んでいる。日曜の23時、ベッドの中でその一覧をスクロールしながら、私はまた1本追加した。「2024年最新版・おすすめ留学エージェント18社徹底比較」というタイトルの記事だ。手数料が0円の会社に赤丸をつけて、サポートが手厚いと評判の会社に星を書き込んで、満足して画面を消す。翌朝、パスポートの申請にも行っていない自分に気づく。

この夜を、私はもう何10回も繰り返してきた。だから今日は比較をやめて、なぜ18社を並べる作業が私を1歩も前に進ませなかったのか、順番にほどいていく。


比較サイトの星の数を数えても、あなたの英語は1語も増えていない

留学エージェントを選ぶとき、多くの人がまず口コミの評価を見る。私もそうだった。会社Aは星4.2、会社Bは星3.8、会社Cはレビュー件数が少ないから信用しきれない。そうやって採点していると、なんとなく仕事をした気分になる。実際にはメールフォームひとつ埋めていないのに。

他人の点数は、あなたの渡航条件と噛み合っていない

星4.5の会社を絶賛しているレビューをよく読むと、書いた人は大学を休学した20歳の学生だったりする。半年の語学留学を、親の仕送りで行った人だ。私は27歳で、営業事務の給料から毎月4万円を積み立てて、退職のタイミングまで自分で決めなければいけない。同じ会社を使っても、その人が受けたサポートと私に必要なサポートはまるで違う。

星の数は平均点だ。平均点は、誰の顔も映していない。1年間ワーホリで働きながら学びたい私にとって、6ヶ月で帰国した学生の満足度は判断材料になりにくい。それでも私は星を数え続けた。数字が並んでいると、比べている実感が手に入るからだ。

評価軸が10個あると、人はいつまでも順位をつけられない

手数料、サポートの手厚さ、対応国の数、現地オフィスの有無、緊急時の連絡体制、口コミ件数、カウンセラーの経験年数。比較表の列が10を超えたあたりで、私の頭は完全に止まった。会社Aは手数料が安いけれど対応国が少ない。会社Bは対応国が多いけれどカウンセラーの評判がばらつく。全項目で1位の会社なんて存在しないから、どこかで妥協するしかない。その妥協を怖がって、私は表を閉じた。

今日できることを1つ書いておく。比較表の列を10個から2個に削る。私の場合は「1年ワーホリのビザ手続きを代行してくれるか」と「渡航前の英語準備に付き合ってくれるか」だけ残した。この2つで足切りすると、18社は4社になった。4社なら電話をかける気が起きる。


「無料」という言葉が、選ぶ目を曇らせていた

手数料0円のエージェントを見つけると、私は反射的に安心した。お金を溶かした過去があるから、無料の2文字にすがりたくなる。でも冷静に考えれば、社員に給料を払っている会社が、私から1円も取らずにビザの相談に何時間も付き合う理由がどこにあるのか。

誰かが払っているから、あなたは払わずに済んでいる

無料エージェントの多くは、提携する語学学校からの紹介料で成り立っている。私が学校Xに入学すると、学校XがエージェントにX万円を払う。この仕組み自体は珍しくないし、悪でもない。問題は、紹介料の高い学校が優先的にすすめられる場面があることだ。カウンセラーが「あなたにはこの学校が合っています」と言うとき、その根拠が私の英語レベルなのか、学校からの手数料なのか、私には見分けがつかない。

だから私は、無料という言葉を魅力として数えるのをやめた。かわりに「なぜこの学校をすすめるのか、理由を3つ教えてください」と質問する。曖昧な返事しか返ってこなければ、そのカウンセラーとは組まない。理由を具体的に語れる担当者は、少なくとも私の状況を見ている。

比較メディアの順位も、報酬で並んでいることがある

私が毎晩開いていた「おすすめ18社比較」の記事。あの順位が、必ずしも実力順とは限らない。掲載順が広告費で決まっているメディアは実在する。1位に載っている会社が、そのメディアに最も高い掲載料を払っているだけということもある。中立を装った採点表を、私は3年近く信じてきた。

気づいてからは、比較記事を「候補を知る入り口」としてだけ使うようにした。順位は無視して、社名だけメモする。あとは各社の公式サイトへ直接飛んで、料金ページと会社概要を自分の目で読む。誰かが並べた順番を、私の決断の代わりにはさせない。


ワーホリのビザには、静かに閉まっていく期限がある

比較を続けても損はない、と私はどこかで思っていた。情報はあればあるほどいいはずだ、と。この思い込みが、いちばん高くついた。

30歳の誕生日が、選べる国を1つずつ消していく

去年の秋、会社のランチで後輩の美咲が「来年カナダにワーホリ行くんです」と当たり前のように言った。美咲は24歳だ。私はそのとき26歳で、まだ1社にも問い合わせていなかった。家に帰ってスマホの電卓を開き、カナダのワーホリビザの申請条件を確認した。多くの国で、申請時点で30歳以下という壁がある。国によっては31歳の誕生日の前日が締め切りだ。

私は指を折って数えた。ビザの抽選や審査に数ヶ月、貯金を積み増すのに1年、退職の引き継ぎに数ヶ月。逆算すると、動き出せる残り時間は思っていたより短かった。比較に費やす1年は、ただの1年ではない。選べる国を物理的に減らしていく1年だ。オーストラリアは35歳まで枠がある国もあるけれど、それは例外で、多くの国の扉は30歳で閉まる。

「英語ができてから」の3年で、扉は本当に閉まる

私はずっと「英語をもう少し話せるようになってから行く」と自分に言い聞かせてきた。TOEICが600点を超えたら、日常会話が詰まらなくなったら、そうしたら申請しよう、と。この条件には終わりがない。英語に「もう十分」という到達点は来ないからだ。3年前の私と今の私で、英語力はほとんど変わっていない。変わったのは年齢だけだった。

今日できることを書く。自分のパスポートの誕生日から逆算して、ワーホリ申請のリミットをカレンダーに赤で書き込む。私は「29歳の誕生日までに申請完了」と手帳の月間ページに書いた。締め切りを紙に書いた瞬間、比較記事を開く手が止まった。締め切りは、どんな口コミよりも私を動かした。


費用の見積もりは、想像で悩むより1回取ったほうが早い

比較表に並んだ「留学費用の目安30万円〜」という表記を、私は何10回も眺めた。30万円なのか100万円なのか、幅がありすぎて計画が立たない。この曖昧さも、私が動けない理由のひとつだった。頭の中だけで費用を膨らませて、勝手に怖くなっていた。

見積もりを取ると、悩みが数字に変わる

ある会社が、渡航先と期間を入れるだけで費用の見積もりを無料で出してくれると知った。ネイティブキャンプ留学のサービスだ。オンライン英会話で渡航前に話す練習を積みながら、留学の費用感まで相談できる。想像で怖がっていた金額が、具体的な数字として手元に来る。フィリピンのセブなら月いくら、期間を延ばすといくら増える。数字になった瞬間、私の悩みは「行けるか行けないか」から「何ヶ月分を貯めるか」に変わった。

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渡航前に口を動かしはじめると、比較する暇がなくなる

費用の見積もりと同時に、私はオンラインで話す練習をはじめた。渡航してから英語を鍛えようと思っていたけれど、現地で最初の1ヶ月を沈黙で潰すのはもったいない。25分のレッスンを平日の朝に1回入れると決めた。最初は自己紹介すら詰まった。それでも2週間続けると、決まった質問には反射で答えられるようになる。

おもしろいことに、毎朝英語を話しはじめてから、夜に比較記事を開く回数が激減した。実際に口を動かす手応えの前では、他人の星の数を数える作業がひどく退屈に見えた。準備の実感は、記事を読むことからでなく、下手な英語を声に出すことから来る。


カウンセリングの予約1件が、3年分の比較より効いた

結局、私を出発へ向かわせたのは、追加の情報ではなかった。人と話す予約を1件入れたことだった。

プロと話すと、自分の条件が言葉になる

私は留学情報館の無料カウンセリングを申し込んだ。フォームに名前とメールを入れて送信するまで、10分もかからなかった。3年間できなかったことが、締め切りを決めたあとは10分で済んだ。カウンセラーと画面越しに話しながら、私は初めて自分の希望を声に出した。1年間、働きながら、できれば英語圏で、貯金は現時点で50万円。

喋っているうちに、頭の中でこんがらがっていた条件が整理されていった。1人で18社の表を眺めていたときは、何を優先すべきか自分でも分かっていなかった。人に説明しようとすると、優先順位が勝手に立ち上がる。カウンセラーは私の予算だとこの国が現実的だと教えてくれて、ビザ申請のスケジュールも一緒に逆算してくれた。

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カウンセリングは契約ではないから、断ってもいい

無料カウンセリングを申し込むと、その会社に決めなければいけない気がして怖かった。実際は違う。話を聞いて合わないと感じたら、断って別の会社に行けばいい。私は2社のカウンセリングを受けて、話しやすかったほうを選んだ。1件目のカウンセラーは私の予算に対して急に高いプランをすすめてきたので、丁重にお礼を言って離れた。

比較記事を読むだけの夜は、決断を先送りする作業だった。カウンセリングの予約は、決断へ向かう作業だ。1件話すごとに、私の中の候補は具体的な顔を持ちはじめた。星の数では絶対に得られなかった手応えだった。


出発月を先に決めると、会社選びは後からついてくる

いちばん効いたのは、順番を逆にしたことだ。私はずっと「良いエージェントを選んでから出発日を決める」と思っていた。でも実際は、出発する月を先にカレンダーに置いたら、そこから逆算してエージェントが決まった。

「何月に出る」を紙に書くと、逃げ道がなくなる

私は手帳の翌年6月のページに「セブへ出発」と書いた。まだ会社も決めていない段階でだ。日付が先にあると、それに間に合わせるために手続きを進めるしかなくなる。ビザの準備を逆算し、退職の意思を上司に伝える時期を決め、貯金の目標額を月割りにした。出発月という杭を1本打っただけで、ふわふわしていた計画に骨が入った。

今日できることを最後に書く。カレンダーアプリでも紙の手帳でもいい、来年のどこかの月に「出発」と書き込む。まだ何も決まっていなくていい。完璧なエージェントを探し当ててから日付を書こうとすると、その日は永遠に来ない。日付を先に書いた人だけが、飛行機に乗る。

3年後の私に、比較記事の23本目を追加させない

もし今日も比較表を眺めて画面を消していたら、来年の私は30歳になり、選べる国が減り、それでもまだブックマークに24本目の記事を追加していただろう。想像すると、ぞっとした。私が失っていたのは4万円の授業料だけではなかった。動かないまま過ぎていく1年、そのものだ。

比較は入り口として3日で終わらせる。候補を4社に絞り、費用の見積もりを1回取り、カウンセリングを1件予約する。この3つを1週間でやり切ったとき、私は初めて「留学の準備をしている」と胸を張って言えた。18社を比べ続けた3年間より、動き出した1週間のほうが、私を成田空港に近づけた。


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