帰国後の半年で消える英語を、「効果なし」と呼ぶ前に確認したい3つの数字

フィリピン・セブ留学

スマホの画面に「フィリピン留学、正直あんまり意味なかったです」の一言が並んでいた。5月の日曜、22時半、洗い終えた食器を伏せたまま、私はソファに沈んでその投稿を3回読み返した。投稿主は3ヶ月セブに行った人で、帰ってきてもう1年半経つらしい。写真の彼女は現地で外国人の友達と笑っていて、キャプションには「あの頃はペラペラだったのに、今はもう何も出てこない」とあった。私はその「もう何も出てこない」で指を止めた。伸びなかった話ではない。伸びたのに消えた話だった。

その落差が、私にはいちばん怖い。27歳の私は英語をずっと来月に送り続けてきて、30歳までにワーホリで一度海外で働いてみたいという願いだけが古びずに残っている。留学の効果を調べては、こういう「消えた」系の口コミに手を止めて、また申し込みを翌月に回してきた。今日はその手の止め方を、少しだけ変えてみたくなった。彼女に何が起きたのか、数字で追えるところまで追ってみる。


セブで伸びた英語が、帰国後の何ヶ月でどれだけ落ちるのか

語学の記憶がどう減るかを扱った古い実験がある。覚えた直後をピークとして、使わないまま放置すると、最初の数週間で一気に落ち、そこから緩やかに底へ近づいていく曲線を描く。留学で起きているのは、この曲線の入り口に立ったまま帰りの飛行機に乗ることだ。現地では毎日6時間から8時間、英語を口に出す環境が続いて、脳がその負荷に合わせて回路を太くしていく。帰国した翌週、その負荷が突然ゼロになる。

ある調査では、留学から戻った学習者の会話流暢性が、帰国後6ヶ月の時点で滞在中の最高値から2割から4割ほど下がったと報告されていた。特に落ちやすいのが、口から言葉が出てくる速さと、とっさの返しだ。読む力や単語の知識は比較的粘るのに、話す反応は使わないと真っ先に鈍る。SNSで見たあの彼女の「何も出てこない」は、まさにこの一番落ちやすい部分の話だった。

200時間の練習が、机の前で消えていく速さ

社会人が1ヶ月の留学で積む会話量は、平日のグループとマンツーマンを合わせて1日6時間として、週末を除いても150時間から200時間ほどになる。日本で英会話スクールに週1回50分だけ通ったとして、同じ200時間に達するには単純計算で4年半かかる。留学の濃さはここにある。だからこそ、帰ってから週に1回も英語を口に出さない生活に戻れば、4年半分をかき集めた回路が、その逆の速さで薄れていく。

私が怖いのはこの薄れ方が静かなことだ。ある日突然しゃべれなくなるなら気づける。実際は、帰国3週目に「あれ、この単語なんだっけ」が増え、2ヶ月目に相槲のOh reallyすら遅れ、半年経つ頃には英語で考える癖が抜けている。落ちている最中は本人も気づかない。気づくのは、久しぶりに英語で話しかけられて言葉が詰まった、あの一瞬だけだ。


「事前に中学英語を仕込む」が、帰国後の消失を止めない理由

留学の記事はどれも準備の話を丁寧にしてくれる。渡航前に中学レベルの文法を復習しておけ、基本の1500語を入れておけ、と。これ自体は正しい。土台がないまま行けば現地の授業が空回りするのは本当だ。私も過去に単語帳を買って数ページで閉じた人間だから、行く前に基礎を入れておく大切さは身に染みている。

ただ、この準備が守ってくれるのは入口だけだ。現地で伸びるための助走にはなっても、帰ってから残るかどうかには一切効かない。事前に文法をどれだけ固めても、帰国後に英語を口に出す相手がいなければ、話す反応は同じ速さで鈍っていく。準備の話は、飛行機に乗るまでの話でしかない。出口の話を誰もしてくれない。

復習を怠ったからではなく、復習の相手がいなかった

上位の記事は「効果が出なかったのは授業外の復習をサボったから」と説明することが多い。でも帰国後に消えた人の多くは、現地ではむしろ真面目に自習していた側だ。問題は帰ってからだ。日本の職場で、通勤電車で、実家の食卓で、英語を使う場面がまるごと消える。復習しようにも、話しかけてくれる相手がいない。単語帳をもう1回めくることはできても、とっさの返しは1人では鍛え直せない。

私の営業事務の1日を思い返すと、英語が顔を出す隙間が本当にない。朝は受発注の処理、昼は請求書のチェック、夕方は在庫の問い合わせ対応。全部日本語だ。もし今セブから帰ってきたとしても、翌日にはこの日本語だらけの机に座る。現地で太くした回路が、この机で1日ずつほどけていく光景が、はっきり想像できてしまう。


帰国後に残った人と消えた人を分けた、たった1つの違い

留学経験のある知り合いを思い浮かべると、英語が残っている人と消えた人がきれいに2つに分かれる。残っている人は、大学時代に半年行った先輩で、帰国してからも外国人観光客のボランティアガイドを月に2回続けていた。消えた人は、社会人で3ヶ月行ったのに帰国後は英語に触れる場をひとつも作らなかった同僚だ。滞在期間の長さでは説明がつかない。半年より3ヶ月のほうが消えていた。

分かれ目は、帰ってきた後に英語を口に出す場が生活の中にあったかどうかだった。ガイドを続けた先輩は、週に2回だけでも「話す反応」を回し続けていた。だから落ちるはずの部分が落ちなかった。同僚は現地でのピークがどれだけ高くても、それを使う場がゼロだったから、曲線の一番急なところを一直線に滑り落ちた。

ボランティアガイドの先輩が週2回だけやっていたこと

先輩がやっていたのは特別なことではなかった。土曜の午前に浅草で観光客に道を教えたり、寺の由来を英語で3分だけ説明したりする。毎回うまくいくわけではなく、単語が出てこなくて焦る日もあると笑っていた。でもその「焦る」瞬間こそが、消えかけた回路をもう1回起こす刺激になっていた。負荷をゼロにしない。ただそれだけを、月に2回、意識的に続けていた。

この話を聞いたとき、私は自分が留学の効果を「現地でどこまでしゃべれるようになるか」でしか測っていなかったことに気づいた。本当に測るべきは、帰ってきた半年後に何が残っているかだった。そしてその半年後の残量を決めるのは、渡航前の準備でも滞在の長さでもなく、帰国後に口を動かす場があるかどうかだけだった。


出口を先に決める。帰国後の維持環境を、渡航より先に手当てする

留学を考えるとき、私はいつも入口ばかり調べていた。どの学校がいいか、費用はいくらか、いつ行くか。でも先輩の話を聞いてから、順番を逆にしたほうがいいと思うようになった。帰ってきた後に英語を口に出す場を先に決めて、その場を維持する前提で渡航を組む。出口を入口より先に手当てする。

出口の候補はいくつかある。ボランティアガイド、地域の国際交流イベント、外国人の多い職場への転職、そしてオンライン英会話だ。この中で、営業事務の私が平日の夜でも無理なく続けられるのはオンラインだった。浅草まで通うのは月2回でも重いけれど、部屋から25分だけなら、帰国後の疲れた夜でもぎりぎり回せる。

帰国前でも今からでも、口を動かす場を1つ確保する

オンライン英会話なら、留学から帰った翌週にそのまま週2回の予約を入れておける。現地で太くした回路を、机の前でも落とさずにつなげる。私が調べた中ではDMM英会話が続けやすそうだった。24時間好きな時間に予約でき、営業事務の残業で遅くなった日でも22時台のレッスンが取れる。まずは無料体験でどんな感覚か触っておくつもりだ。

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大事なのは、この出口を留学と切り離して考えないことだ。むしろ渡航前の今から週1回でも始めておけば、留学が始まった時点で口が動く準備ができているし、帰国後もそのまま同じ枠を続けるだけでいい。留学の前後で場を途切れさせない。この連続性が、半年後の残量を決める。


消えやすいのは発音だ。だから発音は現地任せにしない

帰国後に落ちる部分をもう少し細かく見ると、発音とイントネーションが特に戻りやすい。現地では毎日ネイティブに近い音を浴びるから自然と口が動くけれど、日本に帰れば英語の音を出す機会がなくなり、口の筋肉が日本語の動きに戻る。せっかく現地でつかんだLとRの区別や、文末の上げ下げが、数ヶ月で日本語なまりに引き戻される。

私は過去に発音矯正のアプリを入れて3日で閉じた。1人で録音して聞き返しても、自分の音のどこがずれているのか判断できなかったからだ。正解の音が自分の中にないのに、独学で直そうとしたのが無理だった。発音は、ずれを指摘してくれる仕組みがないと1人では詰む。

渡航前に音の土台を作れば、現地の吸収が速くなる

発音を現地に丸投げすると、限られた滞在中に音の矯正から始めることになって時間がもったいない。渡航前に基本の音を口に馴染ませておけば、現地では音そのものは通じる前提で、中身のやり取りに時間を使える。帰国後も、音の土台さえ残っていれば聞き取りが崩れにくく、落ち方が緩やかになる。

私が今から手をつけるなら発音からだ。speekはひとりで練習しながら音のずれを直せる仕組みで、アプリを3日で閉じた私が引っかかった「自分の音のどこが違うのか分からない」を埋めてくれる。無料で試せる範囲があるので、留学の前段として音を整えるところから入るつもりでいる。

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今夜、留学を調べる前にやっておく1手

あの日曜の22時半、私は「意味なかった」の投稿に手を止めて、いつものように申し込みを来月に回しかけた。でも今回は少しだけ違うことをした。留学の学校比較のページを閉じて、帰国後に自分が英語を口に出す場を1つ、カレンダーに先に書き込んだ。オンライン英会話の無料体験を、翌週の火曜22時に入れた。留学より先に、出口を決めた。

留学の効果が消えるのは、現地でサボったからでも、期間が短かったからでもなかった。帰ってきた机の上に、英語を口に出す場が1つもなかったからだ。だとすれば、私が今できるのは留学の日程を決めることではなく、帰ってきた後に口を動かす場を今日のうちに1つ確保しておくことだ。それは留学に行かなくても始められるし、行くなら行くで、そのまま帰国後の受け皿になる。

SNSで「消えた」と書いた彼女を、私は責める気になれない。彼女もきっと、帰りの飛行機の中では英語が残ると信じていた。ただ、帰った先の机に受け皿がなかっただけだ。私は同じ場所で止まりたくない。だから今夜は、投稿を閉じる前に、無料体験の予約を1つ入れる。それが、5年後回しにしてきた私が踏める、いちばん軽い最初の1歩だった。


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