30万の留学費より、帰国後に失活する30万が重い理由

海外留学・ワーホリ

電卓のアプリを立ち上げて、留学費用の記事に出ていた数字を打ち込んでいた木曜の夜23時すぎ。1ヶ月32万、航空券をLCCにして節約すればあと3万は削れる、相部屋にすればさらに数万浮く、と記事が親切に教えてくれた分をひとつずつ引いていって、画面に残った数字は27万ちょっとになった。貯金の残高を思い浮かべて、これなら半年で貯まる、と一瞬だけ気持ちが軽くなった。そのあと、いつものように何も申し込まずに歯を磨いて寝た。翌朝、営業事務の自分の机で見積書のフォーマットを開きながら、ふと気づいたことがある。あの27万という数字は、私が会社を1ヶ月休んだあいだに入らなくなる給料を、1円も含んでいなかった。

フィリピン留学の費用をまとめた記事は、どれも似た順番で数字を積んでいく。期間別の総額表があって、内訳の分類があって、節約術があって、社会人におすすめの理由が並ぶ。読むと分かった気になる。でも、その表が計上しているのは全部、私の財布から現地に向かって出ていくお金だけだった。私が本当に確かめたかった数字は、そこに載っていなかった。


費用表の32万は「窓口で払う額」であって、私が1ヶ月で失う額ではない

期間別総額の表は、たしかによくできている。1週間なら15万から25万、1ヶ月なら25万から45万、経験者の中央値がだいたい32万、3ヶ月まで延ばすと85万あたり。この数字を疑う気はない。実際に語学学校の窓口とエアラインとビザ延長の役所に、私が支払う金額として、たぶん正確だ。問題は、この表が「私が留学に払う額」という顔をしていながら、中身は「私が現地に払う額」でしかないところにある。

営業事務の私の給料は、月の手取りで22万ほど。この金額は、私が会社の机に座って見積書を作ったり電話を取ったりしているから毎月振り込まれる。1ヶ月フィリピンに行けば、その1ヶ月分は入ってこない。休職扱いにできたとしても給料は止まるし、有給を全部使い切っても営業事務の有給が20日近くまとまって取れる会社なんて私の周りには存在しない。つまり1ヶ月の留学は、記事の32万に加えて、入ってこなくなる22万が家計にのしかかる。合計すると54万。財布から現金として消えるのは32万でも、家計が1ヶ月で軽くなる重さは54万に近い。

この22万は費用表に絶対に載らない。なぜなら財布から「出ていく」お金ではないからだ。銀行口座に振り込まれるはずだった数字が振り込まれないだけで、目に見える引き落としは起きない。だから記事の書き手も、経験者アンケートに答えた人も、この22万を費用として計上する動機がない。でも私の家計は、22万が入らないことと32万を払うことを、ほとんど同じ重さで感じる。むしろ入るはずのお金が入らないほうが、通帳を見たときの落ち込みは深い。

ここで学生と社会人の差がはっきり分かれる。学生が夏休みの1ヶ月を使うとき、その1ヶ月はもともと給料が発生していない空白の時間だ。だから学生にとって留学のコストは、素直に現地に払う32万に近い。ところが社会人の私の1ヶ月には、22万の給料と、その先のキャリアの連続性がぶら下がっている。同じ費用表を読んでも、私が背負う実質総額は学生の1.7倍になる。上位の記事が社会人向けと銘打ちながら学生と同じ費用表を使い回している時点で、いちばん社会人に効く数字を落としている。

私がまずやるべきだったのは、記事の32万から節約術で数万を削る作業ではなかった。自分の働き方だと1ヶ月留学が家計にいくらの穴を開けるのか、給料の逸失も含めて紙に書き出すことだ。手取り22万に現地費用32万を足して、有給で相殺できる分を引く。私の会社なら有給が10日、その10日分の給料は逸失に数えなくていいから、逸失は残り20日分でおよそ15万。32万に15万を足して47万。これが私にとっての実質総額だった。27万で行けると思って眠った夜、私は本当の総額の6割しか見ていなかった。


相部屋とLCCで削れるのは、いちばん小さい財布だけ

節約術のパートは読んでいて楽しい。部屋を6人の相部屋にすれば1ヶ月で数万浮く、航空券は2、3ヶ月前にLCCで取れば往復3万台に収まる、外食を我慢して学校の3食を基本にすれば食費はほぼゼロになる。この背中の押し方はうまい。読むと、自分の努力しだいで留学に手が届くように感じる。私も一度、6人部屋にして航空券を早めに取った場合の見積もりを、記事の数字どおりに作ってみた。

相部屋で浮くのが4万、LCCで浮くのが2万、外食を減らして浮くのが2万。合計8万。たしかに大きい。でもこの8万は、私の実質総額47万のなかの、いちばん動かしやすくていちばん小さい財布から出ている。給料の逸失15万にも、帰国後に英語が消えるリスクにも、この節約術は指1本触れていない。私は総額の大きいところは手つかずのまま、いちばん小さい8万をやりくりして満足していた。

もっと言えば、相部屋の節約には隠れた代償がある。6人部屋は勉強に集中できない。時差ボケの人がいて、シャワーの順番があって、夜中に誰かがスマホで動画を見る。1ヶ月しかない留学で、朝から晩まで詰め込んだスケジュールをこなすなら、睡眠の質は成果に直結する。4万を削るために睡眠を削って、授業の吸収率が9割から7割に落ちたら、私は32万の授業料の効率を2割落として4万を浮かせたことになる。差し引きで損をしている。

この節約の罠に気づいてから、私は削る順番を逆にした。まず動かせないコストを確定させる。授業料と滞在費と航空券と保険とビザ、これは留学の質を守るための最低ラインで、ここを削ると成果が落ちる。その上で、給料の逸失を減らせる働き方があるかを会社に相談する。有給と休職の組み合わせで逸失を15万から10万に減らせるなら、それは相部屋の4万より価値が大きい。財布から出る現金だけを見て節約すると、いちばん小さい財布ばかり触ることになる。

働き方の相談を会社にするのは怖い。留学したいと言った瞬間に評価が下がる気がするし、営業事務の私が1ヶ月抜けたら回らないと言われそうで、口に出せずにいた。でも逸失給料を減らす交渉こそが、相部屋やLCCより桁の大きい節約だ。上司に「英語のスキルを上げて事務の幅を広げたい」と切り出す25分の面談が、6人部屋で1ヶ月我慢するより家計に効く。私が本当にやるべき節約は、そこにあった。


帰国後3週間で英語が消えるなら、47万は溶ける

これがいちばん見えにくくて、いちばん総額を決める費用だ。1ヶ月フィリピンに行って、朝から晩まで英語を浴びて、口が回るようになって帰ってくる。羽田に着いた時点では、たぶん人生でいちばん英語が話せる自分になっている。問題はその先だ。帰国して、また営業事務の机に戻る。日本語しか飛び交わないオフィスで、英語を使う場面はゼロ。見積書と電話とメール、全部日本語。この環境に戻った瞬間から、1ヶ月かけて上げた英語が、日ごとに下がっていく。

語学の維持は、水を張った桶に似ている。留学中は蛇口を全開にして水を注いでいる状態で、桶はどんどん満ちる。帰国して蛇口を締めると、桶の底に開いた穴から水が抜けていく。使わない言語は3週間もあれば口が重くなり、2、3ヶ月で「話せた気がしていた自分」の記憶だけが残る。私が過去にレッスンに通って挫折したときも、通っている数週間は上達を感じたのに、行かなくなった月からきれいに元に戻った。あのときの数万円は、桶に穴が開いたまま水を注いでいた費用だった。

もし帰国後3週間で英語が失活するなら、47万かけた1ヶ月留学の成果は、羽田に着いてから3週間で目減りを始める。半年後には、留学前とほとんど変わらない自分が、47万を払った記憶と数枚の写真とともに残る。これは節約術のどのページにも書かれていない。相部屋で4万浮かせる話は3回も出てくるのに、帰国後に47万が溶けるかどうかは、費用の欄に1行も立たない。

だから私にとっての本当の総額は、47万という数字だけでは決まらない。47万をかけた英語が帰国後も維持できれば、それは投資になる。維持できずに溶ければ、それは過去の挫折の高額版になる。同じ47万が、帰国後の環境ひとつで投資にも浪費にも変わる。総額を左右しているのは現地の内訳ではなく、帰国してからの蛇口をどうするかだった。

ここに気づいたとき、私は留学の見積もりの作り方をもう一度変えた。渡航前の総額表に、帰国後の維持コストの行を足す。帰国後にオンライン英会話を毎日25分続けるなら、月に7000円ほど。半年で4万2000円。この4万2000円を先に見込んでおけば、47万が溶けずに残る確率が跳ね上がる。維持費を惜しんで47万を溶かすのが、いちばん高い節約の失敗だ。


留学の前に、帰国後の桶の穴をふさぐ順番

維持費を見込むだけでは、正直まだ足りなかった。帰国後にオンライン英会話を続けようと決めても、日本の机に戻った疲れた自分が、毎晩25分ちゃんと画面を開くとは限らない。私は過去に、続けるつもりだった習慣を何度も途切れさせてきた人間だ。だから今回は順番を逆にすることにした。留学に行ってから維持を始めるのではなく、留学の前に、国内で維持できる環境を先に動かして確かめておく。

やり方は単純だ。渡航の2、3ヶ月前から、帰国後に続けるつもりのオンライン英会話を、先に習慣にしておく。仕事のある日の22時半に25分、画面の前に座って英語を話す。これを2ヶ月続けられたら、私は帰国後も同じ習慣を再開できる可能性が高い。逆に渡航前の2ヶ月ですら続かないなら、47万かけて留学してから続けようとしても、まず続かない。留学の前に、自分が桶の穴をふさげる人間かどうかを、低いコストで先にテストする。

この事前テストには、月に7000円しかかからない。留学の47万と比べたら誤差みたいな金額だ。それで「帰国後も続く自分か」という、総額の運命を握るいちばん大きな変数を、渡航前に確かめられる。もし2ヶ月続けられたら、そのまま留学に行って、帰国後は既にある習慣に戻るだけになる。桶の底の穴は、留学に出発する前からふさがっている。

私が今使っているオンライン英会話は、月に決まった回数ではなくレッスンが受け放題のタイプで、忙しい営業事務の生活でも自分のペースで回数を増やせるのが合っていた。ネイティブキャンプは予約なしで思い立った瞬間に話せるから、22時半に急にやる気が出た夜でもすぐ始められる。留学の前に、この受け放題で英語を口から出す習慣を体に入れておけば、帰国後の失活リスクは大きく下げられる。

順番を整理すると、まず国内で維持の習慣を先に立てる。2ヶ月続いたら留学の見積もりを本格化させる。留学中は現地の学校で一気に水を注ぐ。帰国後は、出発前から続けている習慣にそのまま戻る。この順番なら、47万が帰国後に溶ける確率は大きく下がる。留学を頭にして維持を後回しにすると、桶に穴が開いたまま高い水を注ぐことになる。私は5年間、その順番を間違えたまま検索だけを繰り返していた。


働き方別に実質総額を出すと、行ける月と行けない月が見える

実質総額を自分の働き方で出すと、留学の現実味が一気に上がる。私の場合を紙に書いてみる。手取り22万、有給が年に10日、休職は上司の判断しだいで曖昧。1ヶ月留学の実質総額は、現地費用32万、給料の逸失が有給10日を引いた20日分でおよそ15万、帰国後の維持費が半年で4万2000円。合わせて51万2000円。この数字が、私が留学に本当に払う総額だ。27万で行けると思っていた自分が、いかに半分しか見ていなかったかが分かる。

ここまで出すと、削るべき場所も見えてくる。51万のうち、いちばん大きいのは現地費用32万だが、これは質を守る最低ラインだから安易に削れない。次に大きいのが逸失給料の15万。ここは会社と働き方を交渉すれば動く。有給を10日から15日に増やせるよう根回しできれば、逸失は15万から11万に下がる。相部屋で4万浮かせるより、有給を5日増やす交渉のほうが、私の総額に効く。

もうひとつ見えてくるのは、行ける月と行けない月の差だ。営業事務の繁忙期に無理やり休むと、逸失給料に加えて、戻ったあとの人間関係のコストがのしかかる。閑散期の月なら、上司も1ヶ月の不在を許容しやすい。私の会社なら8月と2月が比較的空くから、その月に照準を合わせれば、同じ51万でも会社との摩擦が減る。費用の総額を働き方の暦に重ねると、どの月に照準を合わせるべきかまで決まる。

この見積もりを1人で作るのは、正直しんどい。有給と休職の線引きが会社によって違うし、帰国後のキャリアの見せ方も自分では判断がつかない。過去の私は、この面倒くささを理由に、いつも総額表の32万でため息をついて画面を閉じていた。5年間ずっとそれを繰り返して、27歳になった。30歳のワーホリのタイムリミットは、もう3年を切っている。

だから今回は、見積もりを人に手伝ってもらうことにした。留学の相談ができる窓口で、私の働き方だと実質総額がいくらになるか、どの月に行くべきか、帰国後のキャリアにどう組み込むかを、渡航前に全部言語化する。留学情報館は無料のカウンセリングで、費用だけでなく帰国後の見通しまで一緒に整理してくれるから、1人で総額表とにらめっこするより早い。→ 留学情報館で無料カウンセリングを申し込む


今夜できるのは、留学の申し込みではなく維持の1回目

ここまで読んで、また「51万か、貯めれば行けるな」と計算して、何も申し込まずに眠る夜がくるのは分かっている。5年間そうしてきたから。だから今夜の一手は、留学そのものの申し込みにしないほうがいい。51万の見積もりも、有給の交渉も、明日以降でいい。今夜できて、いちばん総額を守るのは、帰国後の桶の穴をふさぐ習慣の1回目を、留学の前の今から始めることだ。

具体的には、オンライン英会話のレッスンを今夜25分だけやる。留学に行くと決める前に、行くかどうかの前に、英語を口から出す習慣が続く自分かどうかを試す。この1回は数100円か、無料体験の枠内なら0円で踏める。51万の決断より、圧倒的にハードルが低い。それでいて、留学の47万が帰国後に溶けるか残るかを左右する変数を、今夜から動かし始められる。

私が過去に途切れさせてきた習慣は、いつも「まとまった時間ができたら本気でやる」と後回しにしたものばかりだった。留学もその同じ罠のなかにある。1ヶ月まとまった時間を取れたら英語を本気でやる、そのために51万貯める、と考えているうちに5年が過ぎた。今夜25分の1回は、まとまった時間を待たずに、細切れの時間で英語を動かし始める練習だ。この練習が続けば、帰国後の日本の机でも同じことができる。

順番をもう一度だけ確かめる。今夜、維持の1回目をやる。それが2ヶ月続いたら、留学の見積もりを働き方別に本格化させる。有給を交渉して逸失給料を下げ、閑散期の月に照準を合わせる。留学中に一気に英語を伸ばし、帰国後は出発前から続けている習慣にそのまま戻る。この順番なら、51万は溶けずに投資として残る。

27歳の今、30歳まで3年を切った私にできる最初の一手は、51万を貯め終えることでも、明日いきなり有給を申請することでもない。今夜、画面を開いて25分話すことだ。留学の総額を守る鍵は、現地の内訳表の外側、帰国後に穴の開いていない桶を用意しておけるかにある。その桶を用意する練習は、留学を待たずに今夜から始められる。5年後回しにしてきた私が、今夜だけは申し込まずに眠らない選択をする。それが51万を溶かさない、いちばん安くていちばん効く一手だ。


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