IELTS6.5に一度触れて、中学レベルに縮める記事を5年読んできた私

海外留学・ワーホリ

ブックマークフォルダに「海外移住 英語」の記事が43本たまっていた

スマホのブックマークを整理していて手が止まった。「海外移住 英語できない」で保存した記事が43本もある。いちばん古いものは2019年の日付で、そのころ私は22歳、営業事務になったばかりで、いつかカナダかオーストラリアで暮らすんだと本気で思っていた。それから5年、私は27歳になり、記事は増え続けた。増えたのは記事の数だけで、私の英語力も、渡航の予定も、1ミリも動いていない。

どの記事も読み終わると気持ちが楽になった。「英語ができなくても海外移住はできます」と最初に太字で書いてあって、必要な英語力の目安があって、翻訳アプリが優秀になったから大丈夫だと締めくくる。読むたびに、まだ間に合う、まだ焦らなくていいと思えた。その安心がほしくて、私は同じ内容を何度も何度も読んでいたんだと思う。

43本を今、順番に読み直してみて気づいたことがある。これらの記事はどれも、私を移住させようとはしていなかった。私を「今日は動かなくていい」という気持ちのまま帰らせようとしていた。今日はここに書くのは、その仕組みを1本ずつ剥がしていって、5年溶かした私が最後にどこで手を打つべきだったのかを、自分のために整理したログだ。


「必要な英語力の目安」の表を見て安心した5年間が、いちばんの遠回りだった

どの記事にも、必要な英語力を並べた一覧が出てくる。現地就職ならTOEIC800から900、永住権の申請ならIELTSのオーバーオール6.5、日常生活なら中学レベルで何とかなる。私はこの一覧を見るたびに、いちばん下の「日常生活は中学レベル」の行だけを目に焼きつけて、上の2行を見なかったことにしていた。

25歳のとき、真剣にワーホリを調べた時期がある。バンクーバーのカフェで働く自分を想像して、求人サイトまで開いた。そこで初めて、応募フォームの英語が読めないことに気づいた。「カバーレターを添付してください」の意味は分かる。でも自分でカバーレターを書けと言われて、私は1文字も書けなかった。翻訳アプリに日本語を打ち込んで出てきた英文を、そのままコピーして送る勇気はさすがになかった。面接に呼ばれたところで、電話がかかってきたら私は最初の1言も返せない。

あのとき私がぶつかったのは「暮らせるか」ではなかった。応募して、返事をもらって、面接に進むという、移住する側に入る手前の関門だ。記事の一覧で言えばTOEIC800から900の行、私が見ないふりをしていたあの行にいた。中学レベルで足りるのは、家が決まって仕事があって生活が回り始めた後の話だと、25歳の私はカフェの求人ページを閉じながらようやく理解した。それでもその夜、私は別の「英語できなくても大丈夫」の記事を開いて、また安心して眠った。

目安の表を見て安心する行為は、勉強しない理由を毎回もらいに行くことだった。中学レベルで暮らせるという1行は本当だ。ただしそれは、私がまだ立てていない地点の話で、そこに立つには表の上の行を先に越えないといけない。私は5年かけて、越えるべき行を見ないための儀式を繰り返していた。


「翻訳アプリが優秀になったから読み書きは不要」を試して、面接でどうなったか

翻訳アプリを推す記事の主張はもっともらしい。読み書きはアプリに任せて、話す聞くだけ勉強すればいい。私も長いことこれを信じていた。実際にオンライン英会話の体験レッスンを予約したとき、この主張が崩れた瞬間がある。

相手のフィリピン人講師が笑顔で「Tell me about your job」と言った。仕事のことを話してと。頭の中で日本語なら10秒で答えられる。営業事務で、受注データを入力して、請求書を作って、電話対応もして。でも英語にする段になって、私の口から出たのは「I am… office… work…」で、そこで止まった。翻訳アプリを開く時間はない。講師は待ってくれたけど、25分のレッスンの半分を私の沈黙が占めた。

翻訳アプリはこの場面で1ミリも助けにならなかった。文字を訳す道具は、相手の目の前で言葉に詰まる私を救えない。就労ビザの面接も、現地での職場の会話も、この体験レッスンの延長線上にある。読み書きを外注できても、口から音を出す部分だけは外注できない。私が5年信じていた「話す聞くだけ勉強」の勉強を、私は1度も始めていなかったことに、体験レッスンで殴られるように気づいた。

翻訳アプリが役に立つ場面は確かにある。役所の書類、スーパーの成分表示、賃貸契約の条項。ただしそれは全部、もう現地に住んでいる人が使う道具だ。住む側に入る前の私には、まだ縁のない便利さだった。便利な未来の道具の話を読んで、今の自分が話せないことから目をそらすのが、私の5年間の中身だった。


「日本人コミュニティが充実した国なら安心」に頼ると、英語が伸びない生活が固定される

記事の後半には、必ずと言っていいほど逃げ道が用意されている。日本人コミュニティや日本語対応の医療機関がそろった国を選べば、英語が弱くても生活のバックアップが効きます、と。私はこの一文がいちばん好きだった。移住しても日本人に囲まれて暮らせるなら、英語の勉強を先延ばしにしても罰は当たらない気がしたから。

去年、実際に海外移住した会社の元先輩に話を聞く機会があった。その先輩はオーストラリアのパースに渡って2年目で、私は羨望のかたまりで質問を浴びせた。返ってきた答えは、私の逃げ道をきれいに畳んでしまった。

先輩は最初の半年、日本人コミュニティに全力で頼ったそうだ。日本語が通じる不動産屋、日本人経営のカフェのバイト、日本人の友達。おかげで生活は回った。ただしビザの更新が近づいたとき、英語のスコア提出が要る種類のビザに切り替える必要が出て、そこで完全に詰まった。6ヶ月間、英語を使わない環境に自分を置いた結果、渡航前より英語が錆びていた。日本人コミュニティに守られた半年は、英語を使わない毎日を過ごした半年で、それはそのまま英語が伸びない半日となって積み重なっていた。

先輩は結局、ビザ更新のために25歳から本格的に勉強をやり直した。「渡航前にやっておけば、こっちで観光したり友達作ったりする時間に回せた」と笑っていた。日本人コミュニティは移住した後の孤独を和らげてくれる。ただし、移住し続ける権利、つまりビザや永住権を守る力にはならない。守る力は英語のスコアが持っていて、そのスコアはコミュニティの外でしか作れない。

私が5年間いちばん頼りにしていた逃げ道は、実は「英語を伸ばさない生活」を選ぶスイッチだった。そのスイッチを押した先輩が、結局は英語に戻ってきた。逃げ道の先に、もっと急な坂道が待っていた。


「移住前に準備すべき3つ」に日付が書かれていないから、私は5年更新できた

準備すべきこととして、多くの記事が3つを挙げる。移住先の文化やタブーを調べる。道を尋ねる程度の短い会話の型を覚える。オンライン英会話や交流イベントで外国人と話す。全部もっともらしくて、全部やった気になれる。

私が実際にやったのは、移住先の文化を調べることだけだった。カナダのチップの相場、オーストラリアの祝日、ニュージーランドの物価。これらを調べる時間は楽しくて、休みの日に3時間ぶっ通しで読んでいたこともある。調べても私の英語は1点も上がらないのに、勉強した気分だけはしっかり残った。

この3つには、致命的に抜けているものがある。いつまでに、どのスコアを、という日付と数字だ。「文化を調べる」に締め切りはない。「フレーズを覚える」に到達点はない。だから私は5年間、この3つを「いつかやること」の棚に置いたまま、毎年少しずつ棚のホコリを払うだけで済ませられた。日付がないタスクは、永遠に今日やらなくていいタスクになる。

試しに私は先月、逆算で日付を書いてみた。30歳の誕生日、つまり2027年の秋までに、就労ビザに使えるレベルの英語を作る。そこから逆算すると、IELTS6.5に届くには一般に600時間から1000時間の学習が要ると言われている。仮に700時間として、残り2年半で割ると、1週間あたり5時間ちょっと。1日45分。これなら通勤の往復と昼休みで作れる。数字に落とした瞬間、初めて「今日の45分」が意味を持った。

逆算を1度もさせないのが、あの3つのポイントの働きだった。文化を調べさせ、フレーズを眺めさせ、いつか話そうねと言う。読者を安心させて帰す仕事は、日付を書かないことで完璧に達成される。私は5年、日付のない安心を更新し続けて、更新のたびに30歳が近づいていた。


2019年の私と、同じ年に動いた友人が、いま完全に別の場所にいる

2019年に「海外移住したい」と一緒に盛り上がった同期がいる。彼女は今、ドイツのミュンヘンで働いている。私は東京の同じ席で、5年前と同じ請求書を作っている。2人のスタートは同じだった。英語はどちらも高校卒業レベル、貯金も似たようなもの、憧れの強さも変わらなかった。

違ったのは、記事を閉じた後の行動だけだ。彼女は2019年の年末に、留学カウンセリングを1件予約した。私は同じ年末に、「英語できなくても大丈夫」の記事をあと3本読んだ。それだけの差が、5年後にドイツと東京の距離になっていた。

彼女がやったのは特別なことじゃない。まず自分の今の英語力を測ってもらい、行きたい国のビザ要件を一緒に洗い出し、逆算した学習計画に日付を入れた。1人で悩むのをやめて、渡航まで扱ってくれる相手に丸ごと相談した。私が5年かけて読んだ43本の記事は、その1件のカウンセリングが持っていた「あなたはいつまでに何をするのか」を、1本も持っていなかった。

今の私がまずやるのは、費用の見積もりを取ることだと決めた。留学やワーホリに実際いくらかかるのか、5年ずっと曖昧なままにしてきた。ネイティブキャンプ留学なら、留学費用の無料見積もりが取れる。金額が見えれば、貯金の逆算も具体的になる。

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見積もりで数字が出たら、次は計画を人に見てもらう番だ。私はこれまで、勉強も渡航準備も全部1人で抱えて、抱えたまま先延ばしにしてきた。1人だと日付を書かなくても誰にも咎められない。だから今度は、渡航のゴールから逆算して計画を組んでくれる相手に相談してみようと思っている。留学情報館の無料カウンセリングなら、今の英語力とビザの目標をぶつけて、いつまでに何をするかを一緒に決められる。

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「英語できなくてもOK」をあと1本読む前に、私が今日やめたこと

ブックマークの43本を、私はさっき全部削除した。手が震えるくらい怖かった。あの記事たちは、私に「まだ焦らなくていい」と言い続けてくれた優しい存在で、消すことは自分に逃げ道を残さないと宣言することだった。

削除しながら分かったことがある。私はずっと「英語ができなくても暮らせるか」を調べていた。でも私がぶつかっていたのは、暮らせるかの手前、そもそも移住する側に入れるかという1点だった。カフェの求人ページで、体験レッスンの沈黙で、先輩のビザ更新の話で、私は3回もその1点を突きつけられていたのに、そのたびに別の安心記事を開いて忘れた。

入口を開けるのは渡航前の英語力で、それは翻訳アプリでも日本人コミュニティでも代われない。中学レベルで暮らせるという話は、入口を越えた人へのご褒美で、越える前の私には遠い景色だった。私が5年ほしがっていたのは、その景色を今すぐもらえるかのような安心だった。

今日から私は、暮らせるかを調べるのをやめる。代わりに、30歳までの逆算に日付を入れて、1日45分を通勤の電車で始める。まず費用の見積もりで数字を確定させて、次にカウンセリングで計画を人に見てもらう。5年で1ミリも動かなかった私が動くには、自分1人の意志だけでは足りなかったから、動いた同期がそうしたように、外から締め切りを持ってくる。次に「英語できなくてもOK」の記事を開きそうになったら、削除したブックマークの数、43という数字を思い出すことにしている。


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