TOEIC600点より先に、初日の薬局で症状を伝えられるか確かめる

フィリピン・セブ留学

マニラの語学学校のパンフレットを7校ぶん、日曜の夜にダウンロードして、月曜の朝に1つも読まないまま出社した週が3週続いた。留学の見積もりを取るという行為が、いつのまにか「見積もりを取ろうとして疲れて寝る」に変わっていた。そこで方針を変えた。パンフレットを比べるのをやめて、実際に無料相談や体験レッスンを申し込んで、自分の耳と口で試した記録を残すことにした。2ヶ月で5校まわった。ここに書くのは、費用表の数字より先に「初日の私が薬局で症状を言えるか」を確かめるための比較記録だ。


比較の軸を費用と授業時間から入れなかった理由

最初は素直に費用で並べようとした。1ヶ月あたりの学費と寮費、渡航費、保険。エクセルに数字を打ち込んでいくと、フィリピン留学の相場が見えてくる。セブの学校で1ヶ月およそ18万から23万、そこに往復の航空券が4万前後、海外保険が1ヶ月1万5千ほど。3ヶ月行けば全部で70万を超える。数字はきれいに並んだ。並んだのに、私は1校も選べなかった。

選べなかった理由は、はっきりしていた。私が知りたかったのは「どの学校が安いか」ではなかった。5年間ずっと英語を後回しにしてきて、勧められると断れずに流されて、気づけば27歳になっている自分が、70万を払った先で本当に口を動かすようになるのか、それだけだった。費用表はその問いに何も答えない。安い学校に行けば口が動くわけでもないし、高い学校に行けば話せるようになる保証もない。

だから軸を差し替えた。5校それぞれで、こう聞くことにした。「英語がほぼゼロの生徒が、渡航して最初の1週間で英語を話す量は、1日あたりどれくらいですか」。この質問への答え方で、学校の中身がびっくりするほど割れた。ある学校の担当者は「個人差がありますね」で終わらせた。別の学校は「1日8コマ、うち5コマがマンツーマンなので、話さざるを得ません」と時間割まで見せてくれた。金額の差より、この答えの差のほうが私には重かった。

費用を先に見ると、安さで逃げ道を選んでしまう

私には自覚がある。楽な選択肢と安い選択肢が並ぶと、その2つを混ぜて「これでいい」と自分を納得させる癖だ。費用表を先に開くと、いちばん安い学校に目が吸い寄せられて、そこが英語漬けの環境かどうかを確かめる前に「ここにしようかな」と半分決めてしまう。決めたつもりになって、また次の日曜まで何もしない。

費用は最後に見る。最初に見るのは、初日から口を動かさせる仕組みがあるかどうか。順番を入れ替えただけで、5校の見え方が変わった。


マンツーマン中心のA校とグループ中心のC校、話した時間が3倍違った

5校のうち2校で体験レッスンを受けられた。オンラインで25分ずつ。この25分の中身が、そのまま学校の性格を映していた。

A校はセブのマンツーマン特化校で、体験レッスンでは講師が私に質問を投げ続けた。「今日は何を食べた」「その料理は自分で作るのか」「作らないなら誰が作るのか」。答えに詰まると、言い換えの単語を1つだけ渡してくれて、また私にしゃべらせる。25分のうち、私が声を出していた時間を後で数えたら、およそ16分だった。文法はぐちゃぐちゃだったけれど、とにかく口が動いた。話し終えたとき、耳が少し熱かった。

C校はグループレッスンを売りにした学校で、体験は模擬グループ授業の見学に近い形だった。4人の生徒がいて、講師が1人。テーマは旅行の思い出。手を挙げた人が話す形式で、私の順番は2回まわってきた。私が声を出した時間は、25分でおよそ5分。残りは他の生徒の英語を聞いていた。聞くのも学びだとは思う。ただ、5年後回しにしてきた私が渡航初日にこの授業に入ったら、5分話して満足して、それを「今日は英語を使った」とカウントして、また楽なほうへ滑っていく気がした。

1日の総発話量を換算してみた

体験の発話時間を1日分に伸ばして計算した。A校は1日6コマがマンツーマン、1コマ50分。発話率が6割として、1日およそ180分は自分の口が動く。C校はマンツーマンが2コマ、グループが4コマ。グループでの発話率を2割で見ると、1日の発話は合計およそ90分。同じ1日でも3倍近い差がついた。1ヶ月で見れば、A校のほうが自分の口を60時間ぶん余計に動かすことになる。

この差は、費用表には絶対に出てこない。時間割の数字を発話量に翻訳して初めて見える。私が5校で確かめたかったのは、この翻訳後の数字だった。


初日シミュレーションをやってくれたB校だけ、私の弱点が名前で返ってきた

B校の無料相談は、他の4校と決定的に違った。カウンセラーが最初に言ったのが「渡航初日を想定してロールプレイしましょう」。空港のタクシー、寮のチェックイン、近くのスーパー、そして体調を崩したときの薬局。この4場面を、英語でその場で演じさせられた。

薬局の場面で、私は完全に固まった。頭痛薬が欲しい、という一言が出てこない。「headache」までは言えたのに、その先の「something for」が出ず、指で頭を押さえて「ここ、痛い」と日本語混じりのジェスチャーになった。カウンセラーは笑わずにメモを取って、こう言った。「さくらさんは単語は知っています。単語を文にする瞬間で止まります。ここを埋めるプログラムが要りますね」。

私の弱点が、初めて名前で返ってきた。「英語ができない」という漠然とした自己評価ではなく、「知っている単語を文にする直前で固まる」という具体的な症状。この診断があるかないかで、留学の意味がまるで変わる。B校はその症状に効く授業として、瞬発的に文を作らせる15分の反復ドリルを1日3コマ組んでいると説明した。

初日シミュレーションを自分でも試すべきだと気づいた

相談が終わって、私は気づいた。この初日シミュレーションは、渡航してからやることではない。留学を申し込む前の、今の日本の部屋でやっておくべきものだった。薬局で固まる自分を、70万払って現地で発見するのは遅すぎる。今週、無料で発見できる。

その日の夜、私はネイティブキャンプのレッスンを申し込んだ。オンライン英会話を留学とセットで扱っていて、渡航前に日本で発話量を作れる。まず日本で薬局と寮のチェックインを演じて、固まる場面を全部あぶり出してから現地に行く。この順番なら、現地初日が「初挑戦」ではなく「本番」になる。

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「日本人が少ない校舎」を売りにするD校が、実際は日本人だらけだった話

D校の相談で、担当者は「うちは日本人比率が3割以下なので英語漬けになれます」と繰り返した。数字を出されると信じそうになる。私は流されやすいので、こういうときこそ質問を1つ足すと決めていた。「その3割は、平日の授業中の話ですか、それとも寮や食堂も含めた1日を通した数字ですか」。

担当者は少し間を置いてから、授業中の数字だと認めた。夕方以降の寮では日本人と韓国人が大半で、食堂の会話はほぼ日本語になる時間帯もあるという。つまり英語漬けは日中の授業時間に限られていて、夜になると母語のぬるま湯に戻れてしまう。私のような人間にとって、この「戻れる場所」がいちばん危ない。楽なほうへ滑る言い訳を、環境そのものが用意してくれてしまう。

それでもD校を切り捨てはしなかった。むしろ考えたのは、日本語に戻れる時間があること自体を、逆手に取れないかということだった。夜は日本人と過ごすと決めるかわりに、日中の授業とその前後1時間だけは英語しか使わないと自分でルールを引く。環境が英語漬けにしてくれないなら、私が自分で漬けにいく。5校まわって分かったのは、環境の英語比率より、私が自分に課す英語の時間割のほうが結果を左右するということだった。

比率の数字は必ず「いつの数字か」を聞く

学校が出す「日本人比率」「発話率」「上達率」といった数字は、どの範囲を切り取ったかで大きく変わる。5校まわった経験から、数字を見せられたら反射的にこう聞くようになった。「それは何を分母にした数字ですか」。この一言で、都合よく切り取られた数字が半分くらい崩れる。営業事務の仕事で、社内の報告数字がどう化粧されるかを毎日見ているからこそ、この質問だけは自然に出た。


短期集中のE校で見えた、3週間で「回るかどうか」だけを確かめる選択肢

E校は最短3週間から受け入れる短期集中の学校だった。私は最初、3週間なんて短すぎて意味がないと思っていた。相談で考えが変わった。担当者はこう言った。「3週間で英語がペラペラにはなりません。でも、現地で生活が回るかどうかは3週間で分かります」。

この言葉が刺さった。私が本当に怖いのは、英語がペラペラにならないことではない。ワーホリで1年行って、英語を使わない仕事に逃げ込んで、何も変わらないまま30歳になることだった。だとしたら、まず短期で「私は現地で生活を回せる人間か」を確かめる価値がある。回せると分かってからワーホリに切り替えれば、1年を英語漬けに使える確率が上がる。回せないと分かったら、その弱点を潰してから本番に行ける。

費用も現実的だった。3週間の学費と寮費で12万前後、航空券と保険を足しても20万を切る。70万を1年ぶんまとめて賭けるより、まず20万で「私は逃げずに口を動かせるか」を試す。この賭け方なら、5年後回しの私でも今週動ける金額に見えた。

短期で確かめるべき5場面を決めた

E校に行くなら、3週間で確かめたい場面をあらかじめ書き出した。空港から寮への移動を自分で頼めるか。スーパーで店員に品物の場所を聞けるか。カフェで注文を言い直されずに通せるか。薬局で症状を伝えられるか。現地の人に道を聞いて、返ってきた英語を聞き取れるか。この5つを、3週間の滞在中に何回自分の言葉で通せたか数えて帰る。数えられる形にした瞬間、留学が「なんとなく英語を伸ばしに行く」から「5場面のクリア数を持ち帰る」に変わった。

この短期の選び方や費用の具体は、複数校を横並びで見られる相談窓口で確かめた。学校ごとに強い場面が違うので、初日の生活を回すことを目的にした相談の仕方をすると、答えが噛み合う担当者に当たりやすい。

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5校を並べ終えて分かった、私が本当に比べていた1項目

費用、授業時間、日本人比率、マンツーマン数、寮の設備。5校を表にして並べたら、比較項目は10を超えた。でも並べ終えて気づいたのは、私が最終的に見ていたのは1項目だけだったということだ。「この学校は、私が渡航初日に口を固まらせたとき、その固まりを名前で返してくれるか」。

A校は発話量で、B校は初日シミュレーションで、E校は短期で回るかを試す設計で、それぞれ私の固まりに手を伸ばしてくれた。C校とD校は、悪い学校ではないけれど、私という流されやすい人間の弱点にピンポイントで触れてはこなかった。同じ費用表の上に並んでいても、私に効くかどうかはまったく別の話だった。

TOEIC600点を目安に、という上位記事のアドバイスを、私はもう気にしていない。600点あっても薬局で頭痛薬を頼めなければ、私の初日は詰む。逆に、薬局と寮とスーパーの5場面を日本で20回演じてから行けば、点数が低くても初日は回る。測るべきは点数の高さではなく、初日の生活場面を今の口で何個通せるかという、数えられる回数だった。

今週やる最初の一手を、留学サイトを閉じる前に置く

日曜の夜に留学サイトを開いて、月曜に日常へ戻る。この往復を私は何10回も繰り返してきた。今回で終わりにするために、サイトを閉じる前の一手を決めた。オンライン英会話で薬局の場面を1回演じる。頭痛薬をくれ、これは食後に飲むのか、1日何回か、この3つを英語で言い切る。今夜25分でできる。

この1回を通せたら、次の日曜には寮のチェックインを演じる。5場面を1つずつ日本で潰していって、全部通せた月に、短期留学の3週間を申し込む。3週間で現地の初日が回ると確かめたら、ワーホリの1年に切り替える。5校まわって、ようやく順番が見えた。点数を上げてから行くのではない。今の口で回る場面を1つずつ増やして、増えた数だけ現地の初日が怖くなくなる。それが、5年後回しの私が30歳までに間に合わせる唯一の道だと思う。


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