無料エージェントに勧められたまま契約する前に、30歳までの3年で自分の判断を取り戻す

海外留学・ワーホリ

日曜22時半、留学サイトと求人サイトのタブを7個開いたまま、私はまた同じ場所に戻ってくる

ノートパソコンの右下に22:34と出ている。開いているタブは、留学エージェントの一括資料請求ページが3個、ワーホリの体験談ブログが2個、転職サイトの営業事務求人が2個。ベッドの上であぐらをかいて、片手でスマホをいじりながら、もう片方でトラックパッドをなぞる。ワーホリしたい、英語をやり直したい、そう思ってこの画面を開くのは、たぶんこの半年で15回目くらいだ。そして毎回、何も申し込まず、何も決めず、タブを全部閉じて眠る。月曜の朝には満員電車に乗って、伝票入力と電話取次の1日に戻る。

先週はちょっとだけ前に進んだ。ある無料エージェントの資料請求フォームに、名前とメールアドレスと電話番号まで入れた。送信ボタンの上で指が止まった。翌日から電話がかかってくるんだろうな、感じのいい担当者が出て、私はまた断れないんだろうな、そう思ったら手が動かなくなって、結局ページを閉じた。

私は無料という言葉が好きで、同時にこわい。5年前、社会人向けの英会話で契約書にサインした日のことを、体がまだ覚えている。感じのいいカウンセラーに「田中さんは伸びますよ」と言われて、その場でうなずいて、実感のないまま4万51000円が消えた。今度こそ流されたくない。だからこそ「無料 怪しい」と検索窓に打ち込んで、出てくる記事を片っ端から読んだ。

どの記事も、私の指がこわがっているものを、うまく言い当ててくれなかった。だからここでは、無料エージェントを勧められるまま契約する前に、私が自分の判断を取り戻すために実際にやったことを、順番に書いていく。30歳まであと3年しかない私みたいな人に向けて。


まず「複数社を比較しなさい」を疑う。比較したところで、私は結局いちばん感じのいい担当者を選ぶ

上位に並ぶ記事の多くが、最後にこう締める。悪質な業者はごく一部だから、複数社を比べて選べば大丈夫、と。私も素直にそれをやってみた。無料エージェントを3社ピックアップして、それぞれの資料を取り寄せて、口コミサイトを行き来した。

やってみて気づいたのは、比較という言葉が指す作業を、私はまるでこなせないという事実だった。3社のパンフレットを並べても、書いてあることはほとんど同じに見える。「あなたに合った学校を無料でご提案」「現地サポート充実」「手続き代行おまかせ」。どこが違うのか、素人の私に見分けられるわけがない。

結局、比較の勝負を決めるのは中身じゃなかった。最初の電話でいちばん親身に聞いてくれた人、返信が早くて丁寧だった会社、そういう印象で私は傾く。感じのいい担当者に3社のうち1社が当たれば、もうその1社に決めてしまう。5年前の英会話も、まさにそうやって決めた。比較したはずなのに、選んだ理由は結局「この人が信頼できそうだったから」だった。

ここに落とし穴がある。無料エージェントの担当者が親身で丁寧なのは、それが仕事だからだ。彼らは接客のプロで、私みたいに断るのが苦手な人間の気持ちを読むのがうまい。感じのよさで選ぶ限り、比較は安心を演出する儀式にしかならない。3社見た、ちゃんと選んだ、そう自分に言い聞かせるための手続きが完了するだけで、判断そのものは何も鍛えられていない。

だから私は「複数社を比較する」という助言を、いったん脇に置いた。比較の前に、担当者の感じのよさで自分が動く癖を先に自覚しないと、何社見ても同じ穴に落ちる。比較よりも、勧められた瞬間に手が止められるかどうか。そこを鍛えないと意味がなかった。


次に「口コミで見分けなさい」を疑う。良い口コミも悪い口コミも、私が損する経路を教えてくれない

口コミを疑え、という助言も定番だ。悪い評価はもちろん、良すぎる評価も自作自演を疑え、と。私はこの助言に従って、あるエージェントの口コミを2時間かけて読み込んだことがある。星5個の絶賛レビューと、星1個の怒りのレビューを、交互に。

読み終えて分かったのは、口コミが教えてくれるのは「トラブルがあったかどうか」だけだということだった。返金してもらえなかった、連絡が取れなくなった、そういう分かりやすい事故は口コミに残る。でも私がこわいのは、そういう事故じゃない。

私がこわいのは、誰も嘘をつかず、トラブルも起きず、担当者は最後まで親切で、契約もスムーズで、それでいて紹介された学校が私にいちばん合う学校ではなかった、というケースだ。この経路には、怒りの口コミが1件も立たない。だって利用者本人が、勧められた学校を疑っていないから。現地に着いて、思っていたのと違うなと感じても、多くの人はそれを「留学ってこういうものか」と飲み込む。星1個をつけるほどの明確な被害だと気づかないまま帰ってくる。

無料エージェントは、提携している語学学校や大学から紹介手数料を受け取って運営が回っている。これ自体は仕組みの問題で、それをもって詐欺だと言うつもりはない。ただ、学校からエージェントにお金が流れているなら、担当者が私に勧める1校は、私にいちばん合う学校なのか、それともエージェントにいちばん多く手数料が入る学校なのか。この2つは、たいてい重ならない。そしてそのズレは、口コミの星の数には決して現れない。

私が損する経路は、悪質業者との事故じゃなかった。善良な担当者が、自分の手札の中からいちばん良さそうな1枚を、心から善意で差し出してくる。その手札がそもそも提携校に限られていて、しかも手数料の高い順に並んでいるかもしれない、という一点だけが、私の見えないところにある。口コミではそこに届かない。


「無料の範囲を超えたらオプション料金」も疑う。私が失うのは小額の追加費用より、断れなかった時間だ

注意点として、どの記事も追加費用の話を置いてくれる。無料の範囲を超えるサポートはオプションで手数料が出る、現地のネット利用料や荷物保管料みたいな小額の想定外出費もある、と。親切な情報だと思う。数1000円から数万円の話で、事前に知っていれば身構えられる。

でも私にとって、金額の大小はもう一番の問題じゃなくなっていた。5年前に溶かしたお金の痛みは、金額そのものより「実感がないまま消えた」ことにあった。使った覚えが薄いのに、口座からは確かに減っている。この感覚が本当にこわい。

無料エージェントで私が失いかねないのは、追加のオプション料金より、断れなかった時間だ。感じのいい担当者に「田中さんにはこの学校がぴったりだと思います」と言われて、その場で「はい」と言ってしまう。その1回の「はい」が、3ヶ月とか半年の現地生活を決めて、数10万円の学費と航空券と、20代の終わりの貴重な時間を確定させる。あとから「本当はもっと合う選択があったかも」と思っても、もう予約は入っていて、キャンセル料が発生する。

25分の体験レッスンや、無料カウンセリングの60分。その短い時間の中で、私は「はい」を口にしてしまう人間だ。これを自覚しているのに、無料という言葉の心地よさに乗って、また同じことをやりかけていた。オプション料金の一覧表を眺めるより先に、私は自分が「その場で決める癖」を持っていることに向き合う必要があった。

金額は事前に調べれば防げる。でも「感じよく勧められたその場で断れない」は、金額表を見ても防げない。私が取り戻したかったのは、勧められた瞬間に「持ち帰って考えます」と言える自分だった。


じゃあ無料エージェントを使うなと言いたいのか。逆だ。無料だからこそ、判断の練習台に使い倒す

ここまで疑ってきて、私はエージェントを全部避けようとは思わなかった。学校選びの情報も手続きの代行も、独学で全部やるのは、私みたいに英語も海外経験もない人間には無理がある。プロの手を借りたい気持ちは本物だ。

考え方を切り替えた。無料で相談できて、契約義務がないなら、これは勧めに流される私が「その場で決めない練習」をするのにちょうどいい場所だ。相談だけならお金がかからない。ならば、勧められて、心が動いて、それでも「今日は決めません」と言って帰る。この一連の動作を、お金をかけずに何度も練習できる。無料であることを、警戒の材料から練習の材料に読み替えた。

そのために私が実際に選んだのが、オンライン英会話をやりながら留学相談もできるサービスだった。ネイティブキャンプ留学は、ふだんのレッスンで英語に触れつつ、留学費用の見積もりを無料で取れる。いきなり対面のカウンセリングに座って断れなくなるより、まずは金額の見積もりだけを取り寄せて、自分のペースで数字を眺めるところから始められたのがよかった。

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見積もりの数字が手元にあると、担当者の言葉に飲まれにくくなる。「この学校がおすすめです」と言われても、費用の目安を自分で先に把握していれば、なぜこの学校なのかを落ち着いて質問できる。感じのよさで即決する前に、数字という手すりをつかんでおく。それだけで、その場の「はい」がずいぶん出にくくなった。


勧められた1校を持ち帰るために、私が今週その場で切れる最初の一手

判断を取り戻すというと大げさに聞こえるけれど、私がやったのは小さな決めごとを1つ作ることだった。カウンセリングでも見積もり相談でも、その場で「はい」と言わない。どんなに感じのいい担当者でも、どんなに条件が良く見えても、必ず「1度持ち帰って考えます」と言って席を立つ。決めるのは家に帰ってから、最低でも1晩おいてから。この1つのルールだけを、事前に紙に書いて財布に入れた。

この決めごとを守れるかどうかを試すために、対面のカウンセリングも1回だけ受けてみることにした。留学情報館の無料カウンセリングは、提携校の中からの提案だという前提を私自身が分かった上で、あえて「その場で決めずに帰る練習」の相手として使った。プロから具体的な提案を受けて、心が動いて、それでも持ち帰る。この負荷をかけないと、私の癖は直らない。

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カウンセリングの前に、私は3つの質問を用意した。1つ、この学校を勧める理由を、私の条件に沿って具体的に説明してほしい。2つ、この学校のほかに候補は何校あって、それぞれ何が違うのか。3つ、提携していない学校で私に合いそうなところはないか。とくに3つ目は、担当者が言葉を濁したり答えをずらしたりしたら、そこに手数料のねじれが隠れているサインだと自分で決めた。

実際に受けてみて、担当者は3つとも丁寧に答えてくれた。それでも私はルール通り「持ち帰ります」と言って帰った。帰りの電車で、勧められた学校を頭の中で1度解体して、見積もりの数字と照らし合わせた。この時間があったから、翌日の自分は少し冷静だった。

怪しいかどうかを会社の側で判定するのは、私にはもう手に負えない。会社が無料で信用できるかを見極める代わりに、勧められた1校をその場で決めずに疑い直せる自分でいられるか。測る先を、外から自分の内側に移した。それができれば、無料エージェントは私の敵ではなくなる。

今週の最初の一手は、たった2つだ。「その場で決めない、1晩おく」と紙に書いて財布に入れること。そして無料の見積もりか無料カウンセリングを1件だけ申し込んで、断って帰る練習を実際にやってみること。日曜の夜にタブを開いて閉じるだけの繰り返しを、今週で終わらせる。30歳まであと3年。流される私を変えるのは、大きな決断より、その場で「持ち帰ります」と言える小さな1回だった。


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